《奪ったバイクで走り出す》

 東京に落下した巨大隕石は、宇宙生命体ワームの出現と、ワームによる無差別殺戮の混乱を招いた。これに対応すべく組織されたZECTは、ワーム撃退の切り札となるマスクドライダーシステムによって、秘密裏にワームとの戦いを繰り広げるが、そのシステムの一つ、カブトを、組織にも属さないニートな若者、天道総司に奪われてしまうばかりか、その専用マシンさえも、見習い組織員・加賀美新の不手際によって持ち去られてしまった。
 カブト用マシン、カブトエクステンダーは、本田技研工業がMotoGPで2年連続チャンピオンを獲得したレース専用車「RC211V」をベースに、ZECTの技術陣の粋を集めて開発されたスーパーバイク。通常時はガソリン仕様の内燃機関走行だが、緊急時においてはECR放電によるプラズマを生成し、イオン加速による走行を可能にするマイクロ波放電式イオンエンジンも搭載している。
 カウリングにはライダーの強化服・サインスーツに使われているヒヒイロノカネと同様の素材を採用しており、ZECTの技術には錬金術的なテクノロジーも関わっていることがうかがえる。
 最大の特徴は、この強化素材とも言うべきヒヒイロノカネ製のエクスカウルをキャスト・オフし、マスクドモードからエクスモードへと変化することにある。マスクドモードにおける最高速度が時速410kmと言われ、流体力学に基づき設計されたカウルによる速度域の実現と思われていたにもかかわらず、前輪を左右に展開し、ライダー自身を空気抵抗の塊にしかねないカウルレスの状態で、驚くなかれ時速900kmをマークするのだ。
 これは、イオン加速時にノーズ前面に特殊フィールドを形成し、空気抵抗を軽減できるためだという。さらに巨大な突撃用エクスアンカーによるスクレイパー効果も関係しているのだろう。これほど巨大な質量を前面に突出させるわけだから、フロントタイヤを左右に展開して安定状態を作り出さなければならない。
 しかし隠匿組織という割には、なんともケレン味たっぷりのマスクドモード・シルエットではないか。結局戦闘時に用をなさないカウルなのであれば、はじめからキャスト・オフ状態でフロントタイヤを展開しない仕様のほうが、いかにもというデザインに思えるのだが、いわゆる“素”の仕様で出てきていたら、天道総司は見向きもしなかったかもしれない。